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Microsoft Dynamics 365 徹底解説

信じられるだろうか、今から9年前までMicrosoft社は低迷期にあった。
WindowsOSとOfficeに固執して、モバイル化、クラウド化という技術革新の時代の波に乗り遅れ、GAFAに大きく溝を開けられていた。”もうマイクロソフト帝国は終わった” そんな声が囁かれていた。
しかし、2014年に3代目CEOとしてサディア・ナデラ氏が就任し、大復活が始まるのである。
今やOfficeをはじめとするビジネスアプリケーション、クラウドプラットフォーム、モバイルPC、データ分析、そして最近ではAI分野で最先端を走っている。
そんなITの”全部盛り”を実現したMicrosoft社のERPをご存じだろうか?
実はこのERP分野でも高い評価を得ており、Magic QuadrantではSAPやOracleと同じく ”LEADERS” の評価を得ているだ。
本日は、Microsoft社のERP「Microsoft Dynamics 365」を徹底解説する。
結論から言えば、ITの”全部盛り”記載したとおり、ERP、SFA、CRM、BI、その全てを1つのプラットフォームで実現することができる。1社で完結したい企業には最適だろう。

1.Dynamics 365 の歴史と特徴

Dyanmics 365 の前身はDynamics CRMである。”Dynamics CRM”と聞けば、懐かしい名前~、と思う人も多いだろう。
Dynamics CRMは主に営業支援、マーケティング、アフターサービスの機能を備えた製品である。

2003年にMicrosoft CRM1.2版がリリースされてから2015年にMicrosoft Dynamics CRM 2016に進化をとげ、2016年にMicrosoft Dynamics 365 Customer Engagementに名称変更された。
現在では、CRMとERP機能群が統合され、Microsoft Dynamics 365として展開している。

Microsoft Dynamics 365の最大の特徴は、なんといってもERP、CRM、SFA、BIのすべてが用意されており、完全SaaS型で提供されることだ。完全SaaS型のERPは他にもOracle Cloud、Oracle NetSuite、SAP S/4HANA Cloudなどがある。

1-1.製品構成

製品群は大きく10のモジュールにより構成されている。
①Dynamics 365 Finance
 一般会計・管理会計・プロジェクト会計・売掛/買掛管理・固定資産管理・経費精算管理

②Dynamics 365 Supply Chain Management
 生産管理・販売管理・購買管理・在庫管理・資産メンテナンス管理

③Dynamics 365 Project Operation
 プロジェクト管理・WBS・契約管理・見積り/経費管理・プロジェクト会計 

④Dynamics 365 Human Resource
 人材管理・休暇管理・福利厚生管理・パフォーマンス管理

⑤Dynamics 365 Business Central
 中小企業向けオールインワンソリューション(上記①~③をコンパクトにした別製品)

⑥Dynamics 365 Sales
 顧客管理・活動管理・営業目標管理・案件分析

⑦Dynamics 365 Customer Service
 顧客管理・問い合わせ管理・契約管理・ナレッジ管理

⑧Dynamics 365 Field Service
 作業指示管理・リソース管理・顧客資産管理・サービス契約管理

⑨Dynamics 365 Marketing
 メールマーケティング、イベント管理、顧客セグメンテーション

⑩Dynamics 365 AI
 セールスインサイト・カスタマーサービスインサイト・ファイナンスインサイト

※①~⑤がERP領域の製品。但し①~④と⑤は別製品。
※⑥~⑩がSFA・CRM領域の製品

1-2.多言語・多通貨・各国の法制度や商習慣に対応

グローバル製品では当たり前かもしれないが、多言語・多通貨管理が実装されている他、
現時点で、ドイツ・フランス・イギリスなどヨーロッパ諸国はもちろん、カナダ・アメリカ・メキシコなどの北米、日本・香港・シンガポールなどのアジアパシフィックなど、世界37の地域で法制度や商習慣に対応したローカル対応機能のほか42の言語に対応している。この点は国産ERPでない機能だろう。

1-3.Dynamics 365 を支える管理基盤

実は、上記のように総合型ERPとして展開しているDynamics 365を支える裏方にも注目しておく必要がある。アプリケーションのログインする際の認証管理を行う「Azure Active Directory」、ERPのデータが格納されるデータベース「Azure SQL」、溜まったデータを分析する「Power BI」などバックヤードも豪華なアプリケーション群がサポートしている。しかしながら、これらのアプリケーションを個別に管理することは非常に負荷が高くなるため、MicrosoftはERP及びこれらバックヤードの豪華アプリケーション群をまとめて管理できる管理基盤「Dyanmics Lifecycle Services」を用意している。
このサービスにより、Dynamics 365がきちんと動作しているかをモニタできる環境監視やビジネスプロセス管理など、Dynamics 365に必要な管理機能を一元化している。システム担当者の負荷は大きく軽減するだろう。

1-4.AI(Artificial Intelligence)

最先端AIを保有しているMicrosoftらしく、もちろんDynamics 365にも実装されている。

営業担当者や責任者が利用する「Dynamics 365 Sales」では、キーワード解析や機械学習によりリードや案件の発掘でコンバージョン率の向上をサポートしている。
また、「Dynamics 365 Field Service」では、問題や課題を事前に察知し、顧客に影響がおよぶ前に解決すべくAIがサポートしている。それにより顧客満足度の向上を支えているのだ。

リアルタイムで大量データを分析することを可能にした「Dynamics 365」に、人間では気づきにくい部分をAIがしっかりとサポートする構成は非常に心強い。

1-5.ユーザービリティ

Dynamics 365は、膨大な機能を有しているが、ユーザーによっては使わない機能がほとんどであり、各メニューから探していく事も一苦労だろう。
これらの課題を解消するためにDynamics 365ではユーザーごとに利用する機能だけを集約した”ワークスペース” と呼ばれる画面を作ることが出来る。これにより自分が普段利用する機能だけしか画面に出てこないので効率的な利用が可能だ。
また、各業務機能のメニューは使い慣れたOffice製品と同じく、ヘッダー部分にリボン形式になっており、直感的に使用したい機能がどこにあるか分かるようになっている。
当たり前かもしれないが、Office製品とのシームレスな連携も実現している。シームレスと言っても国内ERPが謳っている「エクスポート・インポート」ができる事とは違い、Dynamics 365からダイレクトにExcelへ出力したり、ExcelをメンテすればERPにダイレクトに反映されるというシームレスさである。
一方でDynamics365の入力画面は日本製のERPと異なるケースが多いので慣れが必要である。例えば仕訳入力ひとつとっても標準機能では振替伝票形式の入力になっていないので、戸惑う人も多いだろう。検討される際には、すべての機能に関して一通り目を通しておいた方が安心かもしれない。
ただし、代理店が独自に開発したテンプレートだと日本の商習慣に対応した入力画面や帳票も用意しており、仕訳入力でも振替伝票形式の入力画面も提供している。
一言でDynamics365といっても標準モデルから代理店テンプレートまで多数あるという事で、この製品を選定したい場合は複数の代理店の製品を確認する必要があるだろう。またバージョンアップ時の対応等もしっかり確認してもらいたい。

1-6.デバイスを選ばない

こちらも国産ERPではなかなか実装されていないが、デスクトップ・ノートPC・タブレット・スマホなど、どのデバイスからでも利用できる。もちろん、Windows、iOS、Android、どのプラットフォームからでも利用可能であり、OutlookをはじめOffice365との連携も柔軟にできる。

2.Dynamics 365 Business Centralは、Dynamics365とは別物

これは結構誤解されやすいが、Dyanmics 365 Business CentralはDynamics365とは別物である。
Dynamics365と同様にAzure上で利用可能な製品だが、中小企業向けのオールインワンソリューションとして展開されている。もちろんDynamics365の代理店とも異なることが多い。
Dynamics365の管理基盤「Dyanmics Lifecycle Services」などの利用はできない反面、中小企業向けにコンパクトにまとまっていることが最大の強みである。

2-1.オールインワンシステム

中小企業向けといってもかなりのモジュールが用意されている。

①財務管理
 総勘定元帳、債権・債務管理、固定資産管理、予算管理、現預金管理、原価管理、財務諸表など

②販売管理
 受注管理、出荷管理、など

③購買管理
 発注管理、入荷管理、返品管理、諸掛配賦機能、など

④在庫・倉庫管理
 入出庫管理、ピッキング管理、アセンブル管理、在庫移動、棚卸、ロット・シリアル管理など

⑤生産管理
 製品部品表管理、外注管理、工程管理、製造原価管理、など

⑥マーケティング管理
 キャンペーン、アンケート、など

⑦プロジェクト管理
 プロジェクト予算、プロジェクト原価、など


最後に

Microsoft Dynamics 365の特徴やメリット・デメリットを少しでもご理解頂けたら嬉しく思う。
さすがグローバル企業のERPだけあって高機能・高セキュリティとなっているが、これを使いこなせる日本企業は決して多くないだろう。
ERPは自社の身の丈に合ったものを導入されることを個人的には望む。
セールスの言葉やメディアの流行にのせられた結果、多くの企業がたくさんの血を流してきた経験を知っているからだ。

OBIC7徹底解説でも書いたが、システムにファンタジーを求めず、シンプルで少し手間がかかる程度(70点)くらいの仕組みが一番良いと思っている。
システムはあくまでシステムであり、バックアップ要員なのだ。ビジネスは人間が考え、行動することが重要である。

この記事が皆様の検討の一助になれば幸いです。
最後まで読んでいただき、ありがとうございました。

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